企業間取引において、取引先からの代金回収が期限内に完了しない事例が頻繁に発生します。未回収の売掛金が生じると、資金繰りに影響を与え、企業の資金調達力が低下する可能性が懸念されます。したがって、迅速な対応策の実施が必須となります。
このような状況下で有効なのが「督促状」の活用です。
しかし、これまで督促状を送付した経験がない場合、「どのように督促状を作成し送付すべきか分からない」「督促状を送付しても支払いがなされない場合の対策が不明」などの疑問が生じることがあります。
本記事では、督促状の基本的な理解を深めるとともに、効果的な作成方法や支払いが行われない場合の具体的な対応策について詳しく解説します。また、貴社が督促状を受領した際の適切な対応方法についても触れますので、ぜひ最後までお読みください。
督促状とは何か?
督促状とは、未払いの代金や債務の返済を促すために発行される公式な文書です。
企業間取引においては、商品やサービスを提供した側(債権者)が、代金の支払いを受ける側(債務者)に対して、支払いの履行を求める目的で送付されます。
具体的には、契約で定められた支払期限までに売掛金が支払われなかった場合に、債務者に対して支払いの義務を履行するように促すために用いられます。
一般的に「督促状」と聞くと紙の書類を思い浮かべますが、必ずしも紙媒体に限られるわけではありません。メールやSNSを利用したダイレクトメッセージ(DM)でも督促状として機能させることが可能です。
督促状を送付する最適なタイミング
では、督促状を送るべきタイミングはいつなのでしょうか。
通常、売掛金の支払いが契約で定められた期日までに履行されなかった場合に、督促状の送付が検討されます。
一般的な手順としては、まず「催促状」を送り、これに対しても支払いが行われない場合に「督促状」を送付します。
催促状は「支払いをお願いします」という内容で、督促状は「支払いが行われない場合、法的手段に訴える可能性がある」という警告を含むものです。
そのため、最初に催促状で柔らかく支払いを促し、次に督促状で強い姿勢を示すという流れが一般的です。
督促状の法的な効力
督促状には法的な拘束力はありませんが、次のステップとして法的手段を示唆することで、債務者に対する圧力を高める効果があります。
催促状と督促状のどちらも直接的な法的効力は持ちませんが、督促状を送付することで「法的手段に移行する意志」を示すことができ、債務者に対する支払いの圧力を増加させることが可能です。
そのため、法的な効力はないものの、支払いの促進には十分な効果が期待できます。
督促状の効果的な作成方法
未回収の売掛金を回収するためには、督促状を適切に作成し送付することが重要です。
多くの企業が売掛金の回収に際して、期日内に支払いがない場合に迅速に督促状を送付したいと考えています。
以下では、督促状の基本的な構成や具体的な例文、効果的な送付方法について詳しく紹介します。
督促状の基本構成
督促状は以下の要素で構成されます。
発行日または提出日
督促状の発行日または提出日を明記します。西暦または和暦を用いて、具体的な日付を記載することが重要です。
債務者からの連絡や謝罪があった場合に、発行日を確認するためにも日付の明記は必要です。
連絡先・宛先
自社の連絡先と債務者側の宛先を正確に記載します。場合によっては、支店名や部署名を含めることもあります。
宛先が企業名の場合は「〇〇株式会社御中」、代表者宛の場合は「〇〇株式会社 代表取締役〇〇様」、担当者宛の場合は「〇〇株式会社 〇〇支店(〇〇部)〇〇様」と記載します。
表題
相手に対して支払いの重要性を伝えるために「督促状」と明記しても構いませんが、柔らかい表現を希望する場合は「お支払いのお願い」とすることも一つの方法です。
支払要求
支払いに関する具体的な情報を詳細に記載します。
例えば、「支払い期日が〇月〇日であった〇〇商品の代金〇〇円が未払いである」「支払い予定日」などを明確に示します。
請求金額
請求金額を再度明確に記載します。金額を一目で確認できるようにすることで、支払いの必要性を強調します。
入金日
支払い期限を具体的に記載します。
振り込みを促す場合は、「〇〇銀行〇〇支店 普通(口座番号)」などの支払い先情報を再度記載し、「お支払いいただきますようお願い申し上げます」と一言添えると良いでしょう。
法的措置への言及
「この督促状に記載された期日までに支払いがない場合、法的手段を講じる」といった内容を明記します。
また、検討している具体的な法的措置の内容や、支払い遅延による追加費用についても記載しておくと効果的です。
督促状の書き方のポイント
督促状を作成する際は、明確かつ丁寧な表現を心掛けることが重要です。
強硬な表現に偏らず、事務的かつ誠意を持って対応する姿勢を示すことが大切です。
督促状の送付方法
督促状の内容が整ったら、債務者に対して送付します。
送付時には、督促状に加えて請求書またはそのコピーを同封します。請求書には「再発行」という印を赤色で記載しておくことで、相手の二重計上を防止できます。
郵送方法は特別なものを選ぶ必要はなく、普通郵便で問題ありません。封筒の表書きには「督促状」または「お支払いに関するお知らせ」と赤字で記載しましょう。
督促状を送付しても支払いがない場合の対応策
督促状を送付しても売掛金の支払いが行われない場合、次のステップとして以下の対処方法があります。
内容証明郵便での催告書送付
まず、「催告書」を作成し、内容証明郵便で送付します。
催告書は督促状よりも正式な書類であり、催告したという証拠を残すことができます。
催告書自体にも法的効力はありませんが、内容証明郵便を利用することで、「いつ、誰が、誰に、どのような内容の書類を送ったか」が郵便局に証明され、法的手段の際の証拠として活用できます。
売掛金の時効は「債権者が権利を行使できることを知った時点から5年」で成立しますが、催告書を送付することで時効が6ヶ月延長されます。
これにより、売掛金の回収期間を延ばし、法的手段を講じる際の時間的余裕を確保することが可能となります。
裁判所による支払督促の手続き
催告書を送付しても支払いがなされない場合は、「支払督促」の手続きを行います。
支払督促とは、裁判所を通じて債務者に対して督促通知を送付してもらう手続きです。
裁判所からの督促通知は法的な強制力を持つため、督促状を送付しても支払いがない場合には有効な手段となります。
支払督促の手続きは、直接裁判所に出向く必要がなく、費用も比較的低廉なため、迅速に支払いを求める際に利用されることが多いです。
債務者の異議申し立て権
裁判所から督促通知が届いた債務者は、「異議申し立て」を行うことができます。
異議申し立てとは、請求金額が誤っている場合や請求内容に誤りがある場合などに、債務者が反論する権利のことです。
異議申し立てが行われた場合、支払督促は無効となり、法的な争いに発展する可能性があります。
公正証書の作成
債務者が督促状に応じて支払いを行う場合、公正証書を作成します。
公正証書とは、公証人が作成する法的な証明文書であり、これにより未払金の回収が容易になります。
公正証書が作成されれば、訴訟を起こさずとも財産の差押えなどが可能となり、未払金の回収がスムーズに進行します。
民事調停の活用
感情的な対立により話し合いが難航する場合は、第三者を介して「民事調停」を行います。
民事調停では、調停委員や裁判官が仲介役となり、双方の話し合いを進めます。
調停が成立すると、裁判の判決と同等の効力を持つ調停調書が作成されます。
もし調停で合意した内容が履行されない場合、強制執行を行うことも可能です。
仮差し押さえの実施
民事調停の判決が下る前に債務者が資産を隠匿する恐れがある場合は、「仮差し押さえ」を実施します。
仮差し押さえとは、債務者の財産を一時的に差し押さえる手続きであり、これにより資産の隠匿を防ぎます。
民事調停には時間と費用がかかるため、回収予定額とのバランスを考慮し、仮差し押さえの実施を検討することが重要です。
訴訟による強制執行
最終手段として、「訴訟」を提起し、債務者の財産に対して強制執行を行います。
訴訟を通じて「債務名義」を取得することで、債務者の財産に対して強制的な回収が可能となります。
訴訟過程では、債務者との争いが発生することもありますが、途中で和解に至ったり、債務者が出廷しなかったりするケースも多々あります。
勝訴判決を得て債務名義を取得できれば、強制執行手続きを進めることができます。
売掛金に関する時効の理解
売掛金の回収には、時効の概念が重要です。
時効とは、売掛金を請求できる期間のことで、時効が成立すると債権者は法的に債務者に対して請求できなくなります。
そのため、時効が成立する前に督促状や催告書、支払督促などを利用して売掛金を回収する必要があります。
売掛債権の時効期間は5年
売掛金の時効期間について詳しく見てみましょう。
旧民法では、債権の時効期間は原則として10年と定められていましたが、職業ごとに異なる時効期間が設定されていました。
売掛金に関しては、かつては2年の時効期間が適用されていましたが、改正民法により「債務者が権利を行使できることを知った時点から5年」、または「債権者が権利を行使できる時点から10年」のいずれか早い方が時効となるように改正されました。
この改正により、時効成立が難しくなり、売掛金の回収がしやすくなった点は、債権者にとって大きなメリットとなっています。
主観的起算点として「債務者が権利行使を認識した時点から5年」が適用されるケースが多く、企業間取引では契約書に入金日が明記されているため、ほとんどの場合、時効期間は5年となります。
一方、客観的起算点として「債権者が権利を行使できる状態になった時点から10年」が適用されるケースは稀であり、ほとんどの企業間取引においては5年の時効期間が適用されます。
自社が督促状を受け取った場合の対応
これまで、債権者側として督促状を送付する方法について説明してきましたが、反対に自社が督促状を受け取る側になることもあります。
その際には、以下の対応方法を参考にしてください。
督促状に記載された事項の確認
まず、督促状に記載されている内容が事実であるかを確認します。
内容を確認せずに支払いを行うと、誤解やミスに基づいて支払いをすることになりかねません。
請求内容が正確であるか、時効期間が過ぎていないかを慎重に確認することが重要です。
支払いが必要な場合は迅速に対応
督促状の内容を確認した結果、支払いが必要であると判断した場合は、指定された期日までに迅速に支払いを行います。
支払いが遅れることで、取引先企業に迷惑をかけるだけでなく、追加の損害賠償を請求される可能性もあります。
そのため、期日内の支払いを確実に行うよう努めましょう。
支払いが困難な場合は必ず連絡
何らかの理由で支払いが難しい場合は、速やかに取引先に連絡を取り、状況を説明します。
「支払いが困難である」という理由で督促状を無視すると、取引先は「支払いの意思がない」と判断し、法的手段を取らざるを得なくなる可能性があります。
支払いが困難な場合でも、相談することで分割払いの交渉や支払い期限の延長などの対応が可能となる場合があります。
当事者間での解決が難しい場合は、弁護士などの専門家に相談することも検討しましょう。
まとめ
企業間取引において、売掛金の未回収が発生した場合は、迅速かつ適切な対応が求められます。
支払いの催促を怠ると時効が成立し、売掛金の回収が困難になるリスクが高まります。
督促状の送付タイミングや作成方法を理解し、適切な手続きを踏むことで、売掛金の回収を円滑に進めることが可能です。
また、取引先から督促状を受け取った場合の対応策も理解しておくことで、トラブルを未然に防ぎ、健全な資金繰りを維持することができます。
ぜひ、本記事で紹介した内容を参考に、売掛金の回収に向けた効果的な対策を講じてください。