資金繰り表は、企業の財務状況を可視化するための重要なツールであり、特に銀行融資を検討する際に必要とされることが多い資料の一つです。
この資料は、銀行側が融資審査において必須とするケースが一般的で、融資をスムーズに受けるための準備として重要視されます。
しかし、資金繰り表は融資時に限らず、企業の経営全般においても役立つことをご存じでしょうか?
今回は、資金繰り表の基本情報に加え、銀行融資に関連するプロセスや必要書類、資金繰り表作成のポイント、そして日常的な活用方法について詳しく解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、日々の資金管理にお役立てください。
資金繰り表とはどのような役割を持つ資料なのか?
資金繰り表は、企業の資金の流れを月ごとに集計・整理した資料です。
この表を用いることで、キャッシュフローの変動や残高の推移を視覚的に把握できるようになります。これにより、資金不足が懸念されるタイミングや、資金調達が必要な状況を予測することが可能です。
資金繰り表を作成することで得られる主な利点
資金繰り表の作成には、以下のような大きなメリットがあります。
資金の流れを把握し、計画的な改善を図る
資金繰り表を作成することで、たとえば「支払いサイトの長期化が収益を圧迫している」など、潜在的な課題を発見することができます。
こうした問題点が明確になることで、「早期回収のため取引条件を見直す」「必要に応じて追加融資や新たな資金調達手段を検討する」など、資金繰りを効率よく改善するための方策が立てやすくなります。
黒字倒産のリスクを低減
黒字倒産とは、収益が上がっているにもかかわらず、手元の資金が不足し必要な支払いが行えなくなる事態を指します。
2022年に倒産した企業の約37%がこの黒字倒産に該当しており、この問題がいかに多くの企業にとって現実的なリスクであるかを示しています。
資金繰り表を作成しておけば、手元資金の状況や不足のタイミングを事前に察知できるため、適切な対策を講じることが可能です。
融資審査の際に有利な資料となる
銀行は融資の際、資金繰り表を参考に「必要性」と「返済可能性」を確認します。
この資料が適切に準備されていれば、銀行から「普段から資金管理が行き届いている」と評価され、融資審査が円滑に進む可能性が高まります。
キャッシュフロー計算書との相違点
資金繰り表とキャッシュフロー計算書はどちらも資金の流れを示しますが、役割や構成に明確な違いがあります。
項目 | 資金繰り表 | キャッシュフロー計算書 |
---|---|---|
把握範囲 | 将来の資金の流れ | 過去の資金の流れ |
用途の詳細 | 細かく記載 | 通常記載しない |
作成義務 | 規模による義務なし | 大規模法人に義務あり |
資金繰り表は、将来の資金運用を計画的に進めるための資料として活用されます。
銀行融資に関する流れと必要な準備
銀行融資を申し込む際には、以下のようなプロセスを辿ります。
- 融資の申し込み
- 必要書類の提出と面談
- 審査を経て融資の実行
各プロセスで求められる具体的な書類や、準備の注意点について詳しく説明します。
融資申し込み時に必要な書類の具体例
銀行での融資手続きをスムーズに進めるためには、事前に必要書類を整えておくことが重要です。以下はその代表的な書類です。
決算書
一定期間における企業の財務状況を示す書類です。
銀行融資では、貸借対照表や損益計算書などが求められることが一般的です。
試算表
特定の期間における資産、負債、売上や利益をまとめた書類です。
これにより、銀行側は直近の財務状態を把握することができます。
資金繰り表
月単位で企業の資金収支を示す資料で、銀行が融資可否を判断するために利用されます。
事業計画書
将来的な成長戦略や事業内容を具体的に記した書類です。
銀行はこれを基に、事業の将来性や返済能力を評価します。
銀行取引一覧表
預金残高や既存の借入金、借入残高などを整理した書類です。
銀行側はこれを通して、他の金融機関との取引状況を確認します。
納税証明書
企業が税金を適切に納付しているかを証明する書類です。
納税に問題がある場合、融資審査に悪影響を及ぼす可能性があります。
商業登記簿謄本
企業の基本情報(商号、所在地、資本金、役員構成など)を示す書類です。
銀行はこの情報を基に融資対象企業の正当性を確認します。
月次の資金繰り表が銀行提出用で好まれる理由
銀行が融資審査を行う際、特に求められるのは「月次の資金繰り表」です。
この資料により、数か月先までの資金計画が視覚化され、返済能力を的確に評価することが可能になります。
また、社内管理用として日次の資金繰り表を作成しておくことも有効です。
短期的なキャッシュフローを細かく把握することで、予期せぬ資金ショートを防ぐことができ、結果として銀行側からの信頼度も向上します。
銀行提出用資金繰り表の作成方法
銀行融資をスムーズに進めるためには、適切に資金繰り表を作成することが欠かせません。
以下では、効率的かつ正確に作成するための手段とポイントを解説します。
資金繰り表の作成手段
資金繰り表を作成する際には、以下の方法を活用することができます。
テンプレートを活用
資金繰り表を初めて作成する場合、公的機関や各種団体が提供しているテンプレートを活用するのが便利です。
これにより、どの項目を含めるべきかといった基本的な部分を簡単に理解できます。
金融機関のテンプレートを利用
銀行などが独自に用意しているテンプレートもあります。
これらは銀行の審査基準に即して設計されているため、融資手続きが円滑に進む可能性が高まります。
会計ソフトを使用
会計ソフトには資金繰り表作成機能が組み込まれているものもあり、自動計算や予測機能を利用することで、効率的に作成することができます。
入力ミスを減らし、正確性を高めたい場合におすすめです。
カスタマイズしたフォーマットを使用
既存のテンプレートを基に、自社の経営状況に合ったカスタマイズを施すことも一つの方法です。
不要な項目を削除したり、新しい項目を追加したりすることで、より実用的な表を作成できます。
資金繰り表作成時の注意点
資金繰り表を作成する際は、以下の点を意識することが重要です。
経常収支・経常外収支・財務収支を分けて記載
収支の内訳を明確にするため、資金の流れを以下の3つに分類します。
- 経常収支:本業に関連する収支(例:売上、仕入れ、経費など)
- 経常外収支:非本業からの収支(例:助成金、保険金、設備投資など)
- 財務収支:融資や返済に関する収支(例:借入金、返済金など)
これにより、各収支のバランスをより正確に把握することが可能です。
最低でも半年先までの計画を立てる
銀行は、今後の資金の流れを確認するために資金繰り表を求めます。
そのため、現在の状況だけでなく、少なくとも6か月先までの計画を記載することが求められます。
これにより、将来的な資金不足のリスクを低減しやすくなります。
銀行が資金繰り表で注視するポイント
銀行は資金繰り表を用いて、以下の点を確認します。
- 資金不足や支払遅延のリスクがあるかどうか
- 売上や費用の見込みが現実的かどうか
- 資金が大きく動くタイミングや理由
- 経常利益で融資の返済が可能かどうか
これらのポイントを踏まえた資金繰り表を作成することで、融資審査を通過しやすくなるでしょう。
銀行が資金繰り表の提出を求める理由とは?
銀行が融資を行う際に資金繰り表を重視する背景には、主に以下の要因が挙げられます。
銀行の融資審査に欠かせない資料
銀行にとって、融資審査の最優先課題は「融資先が返済能力を有しているかどうか」の判断です。
資金繰り表は、融資後に発生し得る資金不足や経営破綻のリスクを事前に察知するための重要な情報源となります。
資金繰り表を通じて、将来的な収支のバランスや、計画的な返済が可能かどうかを確認することができるため、提出が求められるのです。
企業経営者の資金管理能力を確認
銀行は融資先の経営者がどの程度、自社の資金繰りを把握しているかを注視しています。
資金繰り表が適切に作成されていれば、資金管理能力が高い経営者と評価される可能性が高まります。
逆に、資金繰り表がない場合や不備が目立つ場合は「資金管理が杜撰」と見なされるリスクがあります。
緊急融資対応の迅速化
急な資金不足で融資を申し込むケースでは、速やかに企業の状況を把握する必要があります。
資金繰り表があれば、銀行は資金不足の原因や今後の見通しを迅速に分析でき、スムーズな融資判断につながります。
資金繰り表を日常の経営に活用する方法
銀行融資に限らず、資金繰り表は日々の経営管理においても有用です。
具体的には、以下のような場面で活用できます。
資金不足の早期発見と対応策
資金繰り表を定期的に確認することで、将来的に発生する可能性のある資金不足をいち早く察知できます。
その結果、以下のような対応を事前に行うことが可能になります。
- 売掛金回収の条件変更や交渉
- 新たな融資やファクタリングの利用
- 費用削減や支出の延期
こうした対策を迅速に実施することで、資金繰りの悪化を未然に防ぐことができます。
経営戦略の見直し
資金繰り表を活用すれば、利益率が高い事業への投資や、非効率的なプロジェクトの見直しといった、経営判断をより的確に行えるようになります。
キャッシュフローの改善が経営の安定に直結するため、戦略の再評価に役立てられるのです。
信用力の向上
資金繰り表を日常的に作成・更新している企業は、銀行や取引先から「財務管理がしっかりしている」と評価される傾向があります。
これにより、将来的な融資や取引がスムーズになる可能性が高まります。
資金調達の選択肢を増やすために
資金繰り表を用いて資金不足が見込まれる場合、以下のような資金調達方法を検討することができます。
デットファイナンス(借入による資金調達)
融資やビジネスローンなど、負債を増やすことで資金を確保する手法です。
具体例として以下のものが挙げられます。
- 銀行融資
- 信用保証協会を利用した制度融資
- 商工ローンや事業者ローン
- 不動産を担保にした融資
負債が増えるため返済計画が重要ですが、迅速な資金調達が可能です。
エクイティファイナンス(株式発行による資金調達)
株式を発行して出資を受ける方法です。
これには以下の選択肢があります。
- 新株発行による出資
- クラウドファンディングを活用した資金調達
- 投資家やベンチャーキャピタルからの出資
返済義務がない点が魅力ですが、出資者の意向が経営に影響を与える可能性があります。
アセットファイナンス(資産を活用した資金調達)
自社の保有する資産を売却・活用して資金を調達する手段です。
以下の方法が代表的です。
- ファクタリング(売掛金の早期現金化)
- リースバック(資産を売却後にリースで再利用)
- M&A(事業譲渡や資産売却による資金化)
スピーディーな資金調達が可能ですが、資産の手放しや手数料に注意が必要です。
まとめ
資金繰り表は、融資手続きに不可欠な資料であるだけでなく、日々の経営においても大きな役割を果たします。
正確な資金繰り表を作成することで、資金不足のリスクを軽減し、計画的な経営を行うことが可能となります。
また、資金繰り表を活用すれば、銀行や取引先からの信用度を高めることもでき、企業の成長に寄与します。
まだ資金繰り表を取り入れていない企業は、これを機に活用を検討してみてはいかがでしょうか?