金融機関への返済手段には「資金繰り償還」と「利益償還」の二種類が存在します。
資金繰り償還を継続的に選ぶと、資金が減少し、負債が増加するリスクが伴います。
さらに、最悪のケースでは資金ショートに陥る可能性もあるため、資金繰り償還と利益償還の違いを理解することが重要です。
本記事では、「資金繰り償還」と「利益償還」の基本的な概念や、資金繰り償還の継続によるリスク、資金繰り償還を避けるための方法などを詳しく説明します。
また、資金調達の一つの手段としてファクタリングの利点についても取り上げていますので、ぜひ参考にしてください。
「資金繰り償還」と「利益償還」の基本概要
まず、償還とは、債券の満期日に調達した資金を債権者に返済する行為を指します。
金融機関への返済方法には「資金繰り償還」と「利益償還」の二種類があるため、利用前にそれぞれの特徴を理解することが重要です。
資金繰り償還と対照的な利益償還
資金繰り償還とは、営業利益以外の資金を使って返済を行う方法です。
手元に現金がある場合、それを活用して返済します。
しかし、現金が不足している場合には新たな資金調達が必要となります。
一方、利益償還は、営業利益から人件費や経費を差し引いた余剰資金を使って返済を行う方法です。
安定的な返済が可能となり、企業の健全性を示す指標ともなります。
そのため、可能な限り利益償還を選ぶことが推奨されています。
資金繰り償還の具体的な事例
資金繰り償還には主に以下の三つのアプローチがあります。
現金保有からの返済
現金を持っている場合、その資金を利用して返済を行います。
ただし、人件費やその他の経費も考慮する必要があります。
新規借入による返済
現金が不足している場合、他の金融機関から新たに借り入れを行い返済を実施します。
ただし、この方法は連続的な借入に繋がりやすく、経営の安定性を損なうリスクがあります。
新たな借入を行う際には、しっかりとした返済計画が必要です。
売掛資産の売却による返済
売掛金などの資産を売却して資金を調達して返済を行う方法です。
これをファクタリングと呼び、売掛先からの入金を待たずに資金を得ることが可能です。
ファクタリングは、金融機関からの融資が難しい場合でも利用できる利点があります。
利益償還による返済の実例
利益償還は、営業利益を用いて返済を行います。
例えば、金融機関から500万円の融資を受け、毎月100万円を返済する場合、以下のような流れになります。
金融機関からの借入金500万円で商品を仕入れ、700万円の利益を得た場合、翌月も同様に500万円で仕入れを行うと、余剰資金は200万円となります。
人件費や経費に100万円を必要とするため、残りの100万円を返済に充てることができます。
利息を考慮しない場合、約5か月で返済が完了します。
この方法では、追加の借入を避けられるため、経営の安定性が向上します。
さらに、利益が増加すれば、預金残高も増加し、資金繰りの改善が期待できます。
資金繰り償還の継続によるリスク
資金繰り償還を継続することには以下のようなリスクが伴います。
資金の減少
資金繰り償還は営業利益以外の資金を使用するため、企業の資金が減少します。
例えば、毎月赤字が続く企業が金融機関から100万円を借り入れ、月々5万円を返済する場合、資金の動きは以下の通りです。
前月繰越額 100万円(預金残高)
- 1月:マイナス20万円(利益) – 5万円(返済) → 75万円
- 2月:マイナス10万円(利益) – 5万円(返済) → 60万円
- 3月:マイナス30万円(利益) – 5万円(返済) → 25万円
- 4月:マイナス20万円(利益) – 5万円(返済) → 0円
このように、利益が出ない状態で資金繰り償還を続けると、資金が枯渇してしまいます。
資金ショートのリスク
資金繰り償還が継続すると、利益が出ていない状態が続くことを意味します。
新たな融資を受けることが困難となり、返済能力が不足すると融資を断られる可能性があります。
また、融資先から一括返済を求められる場合もあり、資金調達が困難になり資金ショートに陥るリスクがあります。
借入目的に応じた適切な償還方法の選択
金融機関から融資を受ける際には、「設備資金として使用するのか」「運転資金として利用するのか」など、借入の目的を問われることが一般的です。
どちらの場合も利益償還が望ましいですが、運転資金の借入では資金繰り償還でも問題ありません。
その理由を以下で詳しく説明します。
設備資金の借入時
設備資金の借入は、利益償還が必要とされます。
金融機関は融資時に返済能力を重視しているためです。
例えば、設備投資のために500万円を借入れ、毎月50万円を返済する場合、利益が出ないとこの返済は困難になります。
さらに、運転資金が不足する可能性もあります。
このような事態を防ぐため、金融機関は利益償還が可能かどうかを資金繰り表や事業計画書を基に審査します。
運転資金の借入時
運転資金の借入は、資金繰り償還でも問題ありません。
運営に必要な資金は、仕入代金や人件費、固定費などをカバーするために利用されます。
一般的に売上が入るまでの間の資金を補うために使われるため、利益償還が必須ではありません。
売上金が入った段階で、その資金から返済を行うことが推奨されます。
ただし、売上が低迷し返済額が高額になると赤字に陥るため、無理のない返済計画を設定する必要があります。
資金繰り償還を避ける方法
資金繰り償還を避けるためには、以下の五つの方法が有効です。
事業の見直しによる利益の向上
資金繰り償還を避けるためには、十分な利益を確保するために事業を改善することが不可欠です。
売上があっても利益が伴わなければ意味がないため、「売れ筋商品の優先展開」や「仕入れコストの削減」など、利益を増加させる取り組みを推進しましょう。
十分な利益が確保できれば、利益償還を選択することが可能となります。
本業以外の収支の確認
資金繰り償還を避けるためには、決算書の「経常外収支」に記載されている本業以外の収支も確認することが重要です。
経常外収入と支出には以下のような項目があります。
- 補助金
- 保険の解約返戻金
- 不動産の売却益
- 設備投資
- 貸付金
- 有価証券の購入
企業運営には継続的な設備維持や修繕投資が必要となります。これを企業維持費と呼びます。
企業維持費は損益計画だけでは資金繰りのマイナスを予測できないため、本業以外の収支も確認し、年間の資金繰り計画を策定することが重要です。
措置期間を活用した融資の利用
融資を受ける際には、措置期間の活用も一つの方法です。
措置期間とは、利息のみを支払う期間を指します。
新規事業の場合、すぐに利益が出るとは限らないため、措置期間が設けられています。
例えば、6年間の返済計画で最初の1年間を措置期間とし、残りの5年間で元金の返済を行うことが可能です。
措置期間を利用して安定した利益を確保できれば、資金繰り償還を避けることができます。
ただし、措置期間終了後の返済負担が増加する点には注意が必要です。
運転資金の3か月分の確保
資金繰り償還を避けるためには、運転資金として3か月分を確保しておくことが推奨されます。
取引先からの入金遅延や倒産など、売上金の入金が滞るリスクに備えるためです。
売上金の入金に依存すると、資金不足に陥る可能性が高まります。
そのため、運転資金として3か月分を目安に資金を確保しておくことが重要です。
資金繰り表の作成と管理
資金繰り償還を避けるためには、資金繰り表を作成し、適切に管理することが不可欠です。
資金繰り表は、企業の資金の流れを把握するためのツールです。
売上金の入金時期や金額を可視化することで、経営状況を正確に把握できます。
以下では、資金繰り表の作成方法について解説します。
テンプレートの活用
資金繰り表を作成する際には、既存のテンプレートを活用することをおすすめします。
テンプレートを利用することで、ゼロから作成する手間を省き、効率的に資金繰り表を作成できます。
資金繰り表には決まった形式がないため、使いやすいようにカスタマイズすると良いでしょう。
資金繰り表の主要項目
資金繰り表には以下の項目を含めます。
【項目】 | 【詳細】 |
前月繰越金 | 前月から繰り越された預金残高 |
営業収入 | 現金売上、売掛金回収、手形期日落とし、手形割引など営業に関連する収入 |
営業支出 | 現金仕入れ、買掛金支払い、手形決済、人件費、販売費、管理費、税金などの営業関連支出 |
営業収支 | 営業収入と営業支出の合計 |
財務収入 | 借入金やその他の収入 |
財務支出 | 借入金の返済やその他の支出 |
財務収支 | 財務収入と財務支出の合計 |
翌月繰越金 | 前月繰越と今月の収支の合計額 |
月次推移表を参照しながらの入力
月次推移表を基に各項目に数値を入力します。
月次推移表とは、企業の資産状況や業績の変動を月ごとに確認するための表です。
入力が完了したら、以下の点を確認します。
- 経常収支がプラスか
- 財務収支が経常収支を上回っていないか
- 投資リターンが計画通り得られているか
経常収支は本業以外の収入と支出をまとめたもので、マイナスの場合は本業が赤字であることを示します。
マイナスの場合は早急に原因を特定する必要があります。
例えば、経常収支がマイナスで損益計算書上はプラスの場合、売掛金の回収期間が長い、売上金が未入金などの原因が考えられます。
経常収支と損益計算書の両方がマイナスの場合は、事業そのものの改善が求められます。
一方、財務収支が経常収支を上回っている場合も、資金繰りや事業運営に問題があると考えられます。
また、設備投資による売上増加が計画通りでない場合も確認が必要です。
3か月~1年先の計画の作成
資金繰り表を作成する際には、3か月から1年先までの計画も立てましょう。
設備投資や販売計画の予算、人員計画などを資金繰り表に反映させます。
また、固定費も含めることが重要です。
売上についてはやや控えめな数値を設定すると良いでしょう。
これらを入力後、翌月繰越がマイナスになる場合は資金不足の可能性があると判断し、資産の売却や資金調達を検討します。
ファクタリングを活用した資金調達の推奨
資金調達を検討する際には、ファクタリングの利用をおすすめします。
ファクタリングによる返済は「資金繰り償還」に該当しますが、融資に比べて利用しやすく、資金繰りの改善に有効な手段です。
ここでは、ファクタリングの基本的な仕組みやメリット、注意点について解説します。
ファクタリングの基本構造
ファクタリングは、売掛金をファクタリング会社に売却し、資金化するサービスです。
契約形態には「2者間ファクタリング」と「3者間ファクタリング」の二種類があります。
2者間ファクタリングは、「サービス利用者」と「ファクタリング会社」の二者間で契約を結ぶ形式です。
売掛先の承認が不要なため、迅速な資金調達が可能です。
3者間ファクタリングは、「サービス利用者」「売掛先」「ファクタリング会社」の三者間で契約を結びます。
売掛先も契約に参加するため、ファクタリング会社は売掛金の存在を確認できます。
これにより、「手数料が低い」「審査が通りやすい」といった利点があります。
ファクタリングの利用メリット
ファクタリングを利用するメリットには以下の点が挙げられます。
融資ではないため負債にならない
ファクタリングは売掛金をファクタリング会社に買い取ってもらうサービスであり、融資ではありません。
そのため、負債として計上されることはありません。
即日資金化が可能
金融機関からの融資は申し込みから資金が入るまでに数週間から二ヶ月以上かかることがあります。
一方、2者間ファクタリングでは最短で即日入金が可能です。
3者間ファクタリングでは売掛先の承認が必要なため多少時間がかかりますが、融資よりも迅速に資金調達ができます。
資金繰りの改善に寄与
ファクタリングを利用することで、早期に資金を確保でき、資金繰りの改善に繋がります。
「売掛先からの入金待ちで資金が不足する」という問題も、ファクタリングを利用することで解消できます。
赤字・税金滞納時でも利用可能
ファクタリングは、赤字や税金の滞納状態でも利用できる場合があります。
これは、ファクタリングが売掛先の信用力を重視するためです。
金融機関からの融資が難しい場合でも、ファクタリングなら利用できる可能性があります。
貸し倒れリスクの軽減
ファクタリングは原則として「償還請求権なし」の契約です。
償還請求権とは、売掛先が支払い不能になった場合にファクタリング会社が利用者に支払いを請求する権利のことです。
償還請求権なしの契約であれば、万が一売掛先が倒産しても利用者が代わりに支払う必要はありません。
これにより、貸し倒れリスクにも備えることができます。
ファクタリング利用時の注意点
ファクタリングには多くのメリットがありますが、利用する際には以下の点に注意が必要です。
手数料の発生
ファクタリングには手数料がかかります。
売掛金から手数料が差し引かれた額が支払われるため、全額を受け取ることはできません。
なお、2者間ファクタリングの手数料は8%~18%、3者間ファクタリングは2%〜9%が相場です。
売掛金額までしか資金化できない
金融機関からの融資は審査に通れば数千万円の資金を調達できますが、ファクタリングは売掛金額までしか資金化できません。
例えば、売掛金が100万円の場合、手数料を差し引いた金額しか受け取れません。
希望額に達しない場合は、他の資金調達方法と併用することを検討しましょう。
悪質な業者に注意
ファクタリングを利用する際には、悪質な業者に注意が必要です。
「ファクタリング会社」と称する業者の中には、違法な貸付を行う悪徳業者も存在します。
そのような業者と契約すると高額な手数料を要求され、資金繰りが悪化する恐れがあります。
ファクタリングを利用する際は、信頼できる業者を選定することが重要です。
まとめ
資金繰り償還は、営業利益以外の資金を用いて返済を行う方法です。
一方、利益償還は営業利益を用いて返済を行います。
金融機関からの融資を受ける際には、可能な限り利益償還を選択することが望ましいです。
しかし、企業設立初期や利益が出ていない状況では、利益償還が難しい場合があります。
そのような場合、資金繰り償還を選択することになりますが、「資金の減少」「負債の増加」「資金ショートのリスク」などの問題が発生します。
これらのリスクを避けるためにも、ファクタリングの利用を検討することは有効な選択肢の一つです。